Case7-8 『北方ジャーナル』事件(最判1986年6月11日・民集40巻4号872頁)
裁判所による出版差し止めが許されるかどうかが問われた事件です。五十嵐広三さんは、かつて、旭川市長であり、1975年4月の北海道知事選挙に立候補し、さらに1979年4月予定の同選挙にも立候補する予定でした。『北方ジャーナル』1975年2月に、五十嵐さんは知事にふさわしくないとする記事を掲載し、印刷の準備に入っていました。その記事の内容は、「妖怪」、「毛蟲」、「嘘とハッタリで人々をたぶらかし、端麗な容貌と卑猥なスマイルで人々を幻惑させる」、「罪もない妻を卑劣な手段を用いて離別せしめた冷酷無比の男」などの表現をもちいて五十嵐さんの私生活や人物批評をしたものでした。五十嵐さんは、この記事が掲載されることを事前に知り、名誉毀損を理由として、札幌地方裁判所に、印刷・頒布を禁止する仮処分を申請し、認められました。これに対して、『北方ジャーナル』側がこの処分が違法であるとして損害賠償を求めたのです。
第1審、第2審ともに、原告の請求をしりぞけました。最高裁判所は、表現の行為に対する事前抑制は、厳格かつ明確な要件においてのみ許容されるとした上で、公共の利害に関する情報に対しては、原則として事前差し止めは認められないとしながら、内容が真実でなく、または公益目的でないことが明白で、被害者が著しく回復困難な損害を被る虞があるときには、例外であり、差し止めが許され、この出版記事はその例外に該当するとしました。
また、差し止めを決める際には相手側にも言い分を聞くのが原則であるが、公益目的ではなく、事実ではないことが明白である場合には、相手側の言い分を聞かなくてもいいとし、今回もそれに該当するといいました。